サステナビリティ
会長×社長対談
会長×社長対談
 
  今年度は、創業140周年という大きな節目であり、中長期経営計画「SHIFT2030」フェーズ2がスタートする重要な1年。激動の時代に幕を開けた「SHIFT2030」を推進するにあたり、石切山会長と北村社長の新たな経営トップによる新体制のもと、当社グループをさらなる成長へ導くための戦略や、「SHIFT」に込めた想い、そしてニッタ140年の強さと今後挑むべき課題について意見を交わしました。
激動の時代にスタートした「SHIFT2030」

石切山)創業140周年の大きな節目に、北村社長をトップとした新体制で「SHIFT2030」フェーズ2に臨みます。振り返れば、私は2019年12月に社長に就任いたしましたが、その直後に、コロナ禍という危機的状況の中、中長期経営計画の「SHIFT2030」の策定が始まりました。この逆境は、当社の現在地と未来を見つめ直す機会にもなりました。
「SHIFT2030」は、10年に一度の中長期経営計画であり、当社の進むべき方向を示すものです。コンセプトの「SHIFT」は、世の中が大きく変革していく中で当社としてもそれに対応して変革していかなければならないとの考えから生まれた言葉で、今もなお力強いメッセージとして私たちの指針となっています。フェーズ2では、これまでの成果を土台に、さらなる成長と変革を加速させていきます。
北村)石切山会長の社長就任直後に新田元庸会長が逝去され、そこにコロナ禍も重なるという状況の中で、「SHIFT2030」はスタートしました。当時私はベルト・ゴム製品事業部門の責任者として現場対応に追われていました。当社のベルト・ゴム製品事業は海外でもエッセンシャルサプライヤーとして強く信頼されていましたので、事業活動を止めることなく生産を続けていくことが使命でした。空輸・海運などあらゆる手段を駆使し、供給責任を果たすために全力を尽くしました。従業員の意識も高く、現場で感染を広げないように徹底して感染防止対策を実施して生産活動を継続できたことは良かったと思っています。
この経験を通じて、社員の意識にも変化が生まれ、柔軟な発想や新しい取り組みが芽生えました。結果として業績も大きく落ち込むことなく、組織の底力を再認識する機会となりました。
石切山)ベルト・ゴム製品事業部門をはじめ、現場は困難な状況下でも粘り強く創意工夫しよく対応したと思います。コロナ禍で世界中が影響を受ける中、業績が下がることも覚悟していました。神経質になっても仕方がない、現場の社員は最大限の努力をしてくれると信じていました。当時は事業部長であった北村社長とも、コロナ禍だからと言って何か特別な会議や打ち合わせはしていません。当社の強みは多角化とグローバル化であり、事業や市場が分散することでリスクが回避できます。それぞれの部門が状況に対応して、現場ごとで最善の結果を生み出すために全力で取り組めば、おのずと良い結果につながる、そう信じていました。
北村)何かイレギュラーなことがあればその都度報告する程度で、現場を任せられていると強く感じていました。ただ、現場としては次々と入ってくる注文にどう対応するか考えるのに必死でした。当時は物流が混乱しており、お客様の手元に製品がタイムリーに届かないという不安が生じ、そのため過剰に発注がかかるという状況でした。空輸・海運等様々な手段を用いるにあたって費用は相当かかりましたが、それでも供給責任を果たすことを第一に考えました。受注への対応や感染対策に関しての情報共有を事業部門間でしっかり行い、何とかお客様の期待に応えようという努力を続けていました。
また、事業部門長として社員の動きを見ていて感じたのは、当社の社員は責任感が強く、とにかく真面目だということです。課題があるとすぐに集まり、上下関係なしに意見を出し合っていました。皆が同じ方向を見て協力して進んでいく。コロナ禍では、特にそういった社員たちの姿を心強く感じました。
石切山)まさに、そこが当社の誇るべきところです。お客様の期待にコツコツと応え続け、社員同士が協力して取り組む姿勢は創業者の理念「発明・円満・改良」が全社員に浸透している証です。この理念は、私の理解では後世の社員が明文化したものだと認識しています。自分たちでつかんだ真理だからこそ、皆が自分の言葉として理解し浸透しているのだと思います。また、皆で良い関係性を築いて協力して取り組むことは、まさに「円満」を体現しており、すべてのステークホルダーとの良好な関係性を築くことが自然と身についているように感じます。
新しい技術や事業への挑戦が、ニッタの未来を創る

北村)当社の社員は真面目で誠実です。グループ理念で提唱している「使命・価値観・行動指針」も身についています。
石切山)真面目でコツコツは大切です。しかしその一方で、今も未来も激動の時代が続く中、「SHIFT」を掲げるように、世の中の動きに柔軟に対応し、新しい発想や大胆なアイデアが、ますます重要になると思っています。当社がもっと成長していくためには、変えることなく継承していく部分と積極的に変革していく部分とをうまく組み合わせていくことが必要です。
北村)私は、人は誰しも多面的な可能性を持っており、その力を引き出すには対話と環境が大切だと思っています。他者の考えに触れることが大切で、それが新たな気づきになり、新しいアイデアにつながると思います。変革を進めていくために、社内外の交流を活性化し、多様な視点が交わる職場を作りたいと考えています。
当社の140年は、社会の変化に応じて常に新しい技術や事業に挑んできた歴史です。そしてその中心は常に「人」で、一人ひとりが自分の潜在能力をいかんなく発揮できることが持続的成長の鍵です。
石切山)まさに、新しい技術や事業こそが、会社の未来を創ります。「SHIFT2030」では、既存事業の強化と新事業の探索が柱です。既存事業で培った資本や人材を新領域へ投資することは、当社に最適な成長モデルです。M&Aもその一環で、2017年12月に株式を取得し子会社化したニッタ化工品では、「選択と集中」による構造改革を進め、売上130億円を達成しました。空調製品事業も、販売会社の統一や台湾市場の強化を通じて黒字体質の定着を図っています。インドや除染市場の開拓も今後の成長が期待されます。ホース・チューブ製品事業も建機・半導体に重点を置いた戦略で成果が見えてきました。それぞれの既存事業が「SHIFT2030」フェーズ1で成果を出していますが、これを一時的な成果として終わらせてはいけません。フェーズ2においても引き続き重点課題の一つとして北村社長に舵を取ってもらい、是非、大きな成果に導いていただきたいと思います。
北村)フェーズ1では数値目標の達成に加え、各事業部門の製品ポートフォリオの見直しも進みました。これを礎に、フェーズ2ではさらなる成長に挑んでいきます。
石切山)新事業は売上だけでなく、会社の可能性を広げ、成長への期待値を高める重要な存在です。昨年度、北海道の森林資源を活用し、自生する楓からメープルシロップを製造・販売する新事業が誕生しました。これは新事業探索チームによる提案で、「企画次第で何でも挑戦できる」という意識改革にもつながっています。本業から離れた「食品」分野のため、社内では賛否もありました。また、当社には北海道事業所や新田牧場といった事業拠点が既にあったため、そこでメープルシロップ事業を行えばいいのではないかという意見もありました。しかし、柔軟な発想で事業を展開し新しい企画も提案していって欲しいという願いから、既存の事業とは切り離し、ベンチャー企業「わくっとニッタ」として展開することにしました。発想や企画次第で何にでも挑戦できる社風を象徴するベンチャーとして、採用活動においても強みとなるのではないかと考えています。「わくっとニッタ」には、売上ではなく、自由な発想で既存事業に刺激を与える役割を担う存在として期待しています。
ステークホルダーとの信頼関係が成長の原動力
北村)既存事業でしっかりとした利益を得ていることで、新しい製品や事業分野へ思い切って挑戦できる。それが当社の強さであり、企業価値だとつくづく感じます。
石切山)会社の価値は、売上や利益だけでなく、未来に向けて成長し続ける力と、それに対する期待値も含まれます。当社の業績は堅調ですが、現状に満足することなく、絶えず改善と成長を意識する姿勢が重要であると考えます。現在、PBR(株価純資産倍率)は0.7倍、PER(株価収益率)は8倍と本来の期待値より下回っています。これは未来への期待が不足している証拠です。業績数字で成長や企業価値を示すだけでなく、大胆で、スピード感のある動きを世の中に積極的に示し、期待値を上げていくということが大切です。
北村)スピーディーな成長には、自社で新しい事業を創出するだけでなく、社外から新しい技術やアイデアを積極的に取り込むことも重要です。かつては海外に「日本にはない技術」が多く存在し、それを取り入れることで国内市場での拡販につなげることができました。しかし、今はそうした技術を簡単に見つけられない時代です。だからこそ、当社の事業を強化できる技術や足りない技術を持つ企業を丁寧に探索していく必要があります。社外との連携や協業を通じて、新しい価値を創造し、未来への可能性を広げていくことが、これからの成長に向けた重要な取り組みです。
石切山)是非とも、「SHIFT2030」の大きな目標、そしてダイナミックな成長と新たな価値創造に向けて、北村社長に辣腕を振るっていただくことを期待しています。私の前の社長は「売上1,000億円を超えると景色が変わる」と話しており、その変化をともに見たいと思います。フェーズ2では新事業や成長が期待できる分野を大きく育てて欲しいです。例えば、新素材のNamd™や除染関連製品などは、時間はかかっても確かな成長の芽が育ちつつあります。フェーズ2では、これらを大きく育て、未来の柱へと成長させていくことが重要です。世界では一部に「自国ファースト」の声や「経済優先」の動きも見られますが、環境への配慮やグローバルな経済活動の重要性は、今後も変わらない原理原則です。目先の動きに惑わされず、本質を見据えて取り組むことが、持続可能な成長の鍵となります。当社が継承してきた環境経営とグローバル経営は、これからも変わらず、経営基盤を支える柱であり続けます。
北村)私は、長く続く会社は3つの共通する特長があると考えています。それは、時代の変化に柔軟に対応すること、明確な経営理念を持つこと、そしてお客様との信頼関係を築くことです。例えば、ベルト製品事業で築いた海外販売店ネットワークを他事業にも活用する計画があります。これは、販売店との深い信頼関係があるからこそ実現できる取り組みです。こうした信頼関係は、明確な理念のもとで教育がなされ、優秀な人材が育っているからこそ築かれます。柔軟性・理念・信頼関係──この3つはすべてつながっており、当社の成長を支える根幹です。そして、今後さらに成長していくためには、社員同士の協力、取引先との信頼、そして当社を応援してくださる皆様とのつながりが、何よりも大きな推進力となります。すべてのステークホルダーと円満な関係を築くこと。それを原動力として、私たちは「SHIFT2030」に挑み、未来へと力強く歩み続けます。
石切山)ともに、ニッタの未来のあるべき姿を、そして新しい景色を目指しましょう。
